みずいろのきみ

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続きはふたりでやってくれ(真幸/三強) 

真田くんお誕生日おめでとう!な蓮二さん視点のさなゆきというよりも三強な話です。










「顔が怖い」
精市が左手の親指を折り曲げる。
「いつも眉間にしわがよってる、テクノカット、口うるさい、冷静なつもりでいて感情に動かされまくって自爆する」
左手の指は全部曲がって、今度は右手の親指を曲げる。
「心配性、35歳、自信過剰、存在が時代錯誤」
両手の指を全部曲げきって、彼ははいこれで10個、と呟いた。
「こんなに簡単にあいつの嫌なところをたくさん挙げられるのにどうして俺はあいつのことすきなんだろう」
なあ蓮二、と言いながら精市はごろんと横に転がって、俺の方を見上げる。
そのまま手を伸ばして器に盛ってあるせんべいを一枚掴んでぼりぼりと食いだした。

弦一郎と精市が付き合い出してからそれなりに時が経つが、それでも彼らはくだらないことでよく意見を違え喧嘩をする。
その度にどちらかが俺の部屋へとやってくる。
弦一郎は精市の機嫌取りの相談に、そして精市は弦一郎の愚痴をこぼしに。
このあたりに彼らの力関係が垣間見えるのだが、それはふたりが付き合いだす前となんら変わりがないので俺としては面白くない。
何か新しいデータでも得られるならもっと真面目に話を聞いてやる気にもなるものを。
今日の喧嘩の原因も実に単純でくだらないことだった。まあ痴話喧嘩とはえてしてそういうものだということは理解していても、毎回付き合わされるこちらの身にもなってほしい。
何もこんな日にわざわざ喧嘩しなくてもいいだろうに。
今日は、世間的には所謂恋人たちの記念すべき日であるだろう、弦一郎の誕生日だった。
今頃弦一郎は俺や部員たちからの贈り物や昼休みに教師に内緒で食べたケーキのことも忘れて、精市を追ってあちらこちらを奔走しているに違いない。今日だけは普段と違う、祝福される身であることを考えると哀れだった。
「行儀が悪いぞ」
「ごめんごめん」
その原因である精市はそう言いながらも横柄に傲慢に、起き上がる気配は少しも見られない。だが、その横顔には困惑と後悔が見え隠れしているのが窺えてしまうので、俺はこうして彼らを見放すことができないのだ。
ひとつため息をついた後、おもむろに口を開く。
「……努力家で、裏表がない」
「え?」
「品行方正、嘘をつかない、妥協をしない、一途、顔が怖いが整っている、声がいい、意外と素直、そして」

「誰よりお前に近い場所にいる」

精市は一瞬目を見開いた後、ぷいとこちらから顔を背けた。
柔らかに波打つ髪から覗く頬が膨らんでいる。
「……蓮二はずるい」
「どうしてだ?」
彼の言いたいことはわかっていたけれどあえてはぐらかす。
「俺が先に言おうと思ってたのに」


ぴんぽん、と呼び鈴のなる音が玄関の方から聞こえ、母の慌ただしい足音がそれに次いで耳に入る。
やや遠いがそれでもわかるやたら滑舌のいい低い声に俺は思わず唇を歪めた。
精市はまだ気がついていない。依然寝転がったまま相変わらず音を立てながらせんべいをむさぼっている。
「精市」
なに、と不機嫌そうな声が返ってくる。
「そういうことは本人に言ってやれ」
決して乱暴ではないが静かともいえない力強い足音が階段を上がりこの部屋を目指し迫ってくるのが聞こえる。
精市も気付いたようではっと表情を変え身体を起こした。

「幸村!!」

やかましい音を立てて俺の部屋の襖が開いた。
飛び込んできた彼は息を切らして必死な目で精市を見つめる。まるで俺はこの場にいないかのようだ。
「うるさいぞ弦一郎。仮にも人の家なのだからもっと丁寧に扱え」
「ああ、蓮二、すまない。つい」
弦一郎はたった今第三者の存在に気付いたようで、俺の姿を認めると慌てて謝罪した。
頭に血が上った弦一郎は手に負えない。普段は礼儀正しくて母にも気に入られていたが、これで株は下がっただろう。俺には関係ないが。
不意打ちに驚いて固まっていた精市が眉を上げる。
「っ、何をしに」
「きたんだ真田、帰ってくれ俺はもうおまえなんか知らない、とおまえは言う」
彼が言わんとしていた台詞の大部分を先回りして言いながら、精市の腕を引っ張って立ち上がらせて仕上げにどんと背中を押した。
俺の強引な行動になすがままだった精市は案の定バランスを崩し弦一郎の胸に飛び込み、その勢いでふたり共廊下に倒れる。
「……いきなり何をするんだ蓮二!」
突然転ばされた精市は、弦一郎の身体を下敷きにしたまま俺を睨む。精市の鋭い目つきは並大抵の者ならば一瞬で縮み上がりそうなものだが、不本意ながら慣れきった俺にはまったく効果はない。
「弦一郎の乱入で話が途切れたが…」
ちょうど廊下に押し出された形のふたりを見下ろしながら、顎で弦一郎を示す。
「こいつの心配性は、おまえ限定だ」
「は」
突然の話の転換に精市が目を見開く。ふむ、珍しい顔が見れた。
「よって客観的に見て嫌なところは9個、いいところが10個だ。よかったな精市、いいところの方がひとつ多いぞ」
弦一郎は精市の体重で押しつぶされて苦しそうにしながらも、俺の台詞に疑問を覚えたのかよくわからないという顔をしている。
肝心の精市は、ついさっき俺にのろけたその舌の根も乾かぬうちに弦一郎の文句を本人の前で言ってやろうとしているのだろう、顔を赤くして口をぱくぱくとさせている。まったく素直じゃない。
すぐにそれが口から出てこないのは俺の言った言葉に心が動いているからに違いない。
そして弦一郎は相変わらず苦しそうにしている。
どけと一言言うか、無理矢理に起き上がり精市を転がしてしまえばいいだろうに、それをしない。
本当におめでたくて手のかかるふたりだ。
「それだけいいところも悪いところも理解しているのなら、話も和解も早いだろう。そしていいところの方が多いときた。この意味がわかるな精市?さあ、わかったならふたりまとめてとっとと帰れ」
「れん…!」
勢いよく、だが音を立てずに襖を閉め、素早くつっかえ棒を立てる。
二人ともよく躾けられたもので、閉められた襖を無理やりにでも開けてしまいたいが乱暴に叩くわけにはいかないと躊躇している様子が壁一枚を隔てて背中越しに伝わってくる。
精市が弦一郎の上から下りて体勢を立て直し、一息ついて落ち着いたであろう頃を見計らって声をかける。
「ああ、弦一郎、言い忘れていた」
「……なんだ?」
「改めて誕生日おめでとう。それはプレゼントだ。受け取れ、そして持ち帰れ」
「な…っ蓮二!どういうことだよ!」
弦一郎が俺の言葉を理解するより早く自らがプレゼント、と称されたことに気付いた精市から批難の声が上がる。
しかしそんな声は頑として無視を決め込む。もう精市には伝えた、あとは二人次第だ。俺の知ったことではない。
そのまま放っておくと襖の向こう側から困惑した声で蓮二、と呼ぶ声が幾度か耳に入ったが、しばらくすると諦めたのか、それとも覚悟を決めたのか、精市が少しばかり硬い声で弦一郎に話しかけるのが聞こえた。
「真田。……帰ろう」
「……幸村」
そして静かに階段を下りるふたつの足音。どうやら俺の荒療治は効いたらしかった。

「流石に今回ばかりはな…弦一郎の肩を持っても罰は当たらないだろう」
そう1人ごちて、沈みかけた夕日が僅かに差し込む窓を見やると、肩を並べて駅への道を歩き出す二人の姿が見えた。
と、俺の視線に気付いたのか精市が振り向いてこちらを見上げる。恨みがましい目で睨まれるのかと思いきや、精市は悪戯っぽく微笑んで弦一郎の腕を取り肩に顔をうずめた。
その突然の精市の行動に弦一郎がびくりと背筋を震わせて夕日よりも顔を赤くしている。
結果的に俺は弦一郎に最良の贈り物をしたこととなるのだが、経緯を考えると己を含めた3人のあまりの莫迦莫迦しさに溜息をつかずにはいられない。
だが、俺はこのポジションがなかなか面白く居心地がいいのだった。誰よりも彼らに近く、干渉と観察、そして共感を許されているこの位置は。
明日、今日の謝礼としてこの後の二人に起こる出来事を聞き出して、ノートを埋めさせてもらうこととしよう。おそらく今日以上にあてられるだろうが、それはそれでまた一つの弱みとなる。
思わず頬が緩んだ。
けれど今は、カーテンを閉めて俺の役目も幕を引く。
どうぞ続きはお好きなように。
声に出さずに呟いて、そっと彼らを祝福した。
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